苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

2018-01-01から1年間の記事一覧

カセットテープ・ライフ side B

彼女と同棲を始めたのは、1年くらい前のことだったろうか。 彼女の名前は「荻野秋子」というのだけど、初対面の人の4割くらいには「萩野」だと勘違いされるそうだ。俺も最初は「萩野」だと思っていて、そのことを付き合い始めてから言ったら、グーで殴られ…

カセットテープ・ライフ side A

彼と同棲を始めて、1年くらい。 彼の名前は「管原文太(かんばらぶんた)」。初めて会った人の6割くらいの確率で「菅原文太」と間違えられるらしい。かくいう私もその6割の側で、付き合い始めてからそのことを言ったら、彼は笑っていた。 お互いの家を行…

Hamburg insanity

ドアをくぐると、そこは…という書き出しを思い浮かべながら、ドアを押してみたところ、開かなかった。しばらくドアの前で四苦八苦していると、見かねた店員さんが中からドアを開けてくれた。 出鼻を挫かれて入店したのは、ハンバーグの店だ。そしてわたしは…

カロリーに寄す

空腹に耐えかねて扉をくぐると、そこはカロリーの楽園だった。しかし、本当に楽園なのか。そこかしこに餓えたサラリーマンがひしめきあっている。その様子はさながら地獄のようだ。楽園とは地獄なのか。答えは否である。地獄に救いはないが、この店には救い…

かぼちゃを食べる日

ハロウィンといえば、かぼちゃのランタンですが、かぼちゃはアメリカ大陸原産の植物で、ヨーロッパにはありませんでした。もともとはカブなどがランタンの材料として使われていましたが、大航海時代のアメリカ大陸の「発見」以降、ヨーロッパにもかぼちゃが…

世界の終わりとその前衛

朝起きたら、世界が終わっていた。 そもそも目が覚めた時には、世界が終わっているなんて思ってもいなかったのだけど、テレビをつけようとしてもつかないし、冷蔵庫の電源も落ちているし、これは停電に違いないと思って、スマホでニュースでも見ようとしたら…

NGY大学不思議譚③振り出しに戻る時

気がつくと、図書館の机で眠っていた。時計は午前10時を指している。 5月下旬、大学祭に向けてそわそわしている学内で、私は一人レポートに取り組んでいた。楽に単位が取れそうだと思って履修した講義が、「原稿用紙に手書きで書評を書いて毎月末に提出する…

日本におけるクリスマスの起源

恋人たちのイベントとしてすっかり定着した感のあるクリスマスですが、ここまで広まった背景には日本で古く(室町時代)から信仰されている神様がいることをご存知でしょうか。その神様は「邇古蕾天(にこらてん)」と言います。もともとキリスト教の聖人であっ…

It's not half.

「ハンバーガーがあるなら、完全体の全バーガーもあるはずだから、探しに行ってくるよ。」 そう言って父が出ていったのは、もう20年も前のことだ。 当時小学生になったばかりだった私は「ゲームに出てくる冒険者みたいで格好いい!」と思い、いつか父が全バ…

NGY大学不思議譚②本山原人は雑木林に消えた

かつて、「本山原人」と呼ばれる人々がいた。彼らは毎朝、どこからともなく名古屋市営地下鉄の本山駅周辺に現れて、四谷通りの坂をぞろぞろと列をなして南下していく。皆揃いも揃って、薄汚いシャツにリュックサックを背負い、前傾姿勢で歩いていく姿は街行…

NGY大学不思議譚① コンビニエントな増殖は止まらない

私の通っている大学の構内には、コンビニがある。そのコンビニには、レジ打ちの際にやたらと客に話しかける店員さん─ここでは仮に葉本さんとしよう─がいて、面白がられたり、鬱陶しがられたりしている。 ある日の夕方のこと、指導教官の部屋で卒論の指導を受…

誘惑するたぬき

暑い暑い夏の、殊更暑い午後。外気温は今年最高を記録している。そんな日に涼を求めてたどり着いたのは、大きな川が流れる街の蕎麦屋であった。昼食の時間はとうに過ぎて、おやつの時間も少し過ぎようかという頃合いにも関わらず、客足は途切れることはない…

外国での問答

先日、アフリカ南部のとある国に行った。 特に用があった訳でもないが、暇をもてあまして沢木耕太郎の『深夜特急』を読んでいたところ、旅に出たい欲求がふつふつと湧いてきた。 沢木を読んだからアジアに行くでは芸がない。 そこで、行く先に選んだのはアフ…

河童との対話

今日、不思議な体験をした。 河童と対話をしたのである。 その河童―ここでは仮に杉山くんとしよう―は大学の同じゼミの後輩だ。 杉山くんのことは以前から知っていたし、当然のことながら、彼は人間であると私は思っていた。 彼が河童であることが発覚したの…

料理人の肖像

今日、不思議な体験をした。 不思議な棒を拾ったのである。 「素敵なステッキ」という駄洒落があるが、その棒は素敵とはほど遠い質素な棒であった。 しかし、不思議な棒なのである。 それは確かに棒であるのだが、見れば見るほど葉っぱに見えてくるのだ。 果…

もの凄い鯖

海に面した県の、海から遠く遠く離れた場所に住んでいるので、海を見るだけでやたらとはしゃぎたくなる。しかし、海の魚を食べるということになると、てんで心が躍らず、「肉ではないのか」とがっかりすることさえあった。そんな過去の自分を張り倒したくな…

Hamburg! Hamburg! Hamburg!

ハンバーグの肉はどうあるべきかということを考えるとき、まず思い浮かぶのは、粗挽きの牛肉である。炭火で焼いた大ぶりのハンバーグを、熱々の鉄板の上で割って食べるのはたまらない。では、豚肉であったらどうだろうか?合挽きなどではなく、100%の豚肉で…

My most favorite Tonkatsu!

とんかつが届く前から、その戦いは始まっている。 与えられたソースは5種類。シンプルな塩、王道のとんかつソース、こだわりの詰まったオリジナルソース、さっぱり系の梅酢ソース、名古屋人の魂味噌だれ。対してソース皿は3種類分。この中からどれを選ぶかに…