苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

もの凄い鯖


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海に面した県の、海から遠く遠く離れた場所に住んでいるので、海を見るだけでやたらとはしゃぎたくなる。しかし、海の魚を食べるということになると、てんで心が躍らず、「肉ではないのか」とがっかりすることさえあった。そんな過去の自分を張り倒したくなるほどの鯖が、そこにはあった。
海が見えるフェス会場の砂浜沿いの最高のシチュエーションで焼かれる鯖の香り。それに逆らえる人間がどれほどいるだろうか。
絶妙の塩梅で焼かれた鯖の身を箸で崩して口に運ぶ。何もかけていないのに、ほどよい塩気。一瞬、ご飯が欲しくなる。しかし、次の瞬間にはそれが過ちであることに気付く。濃厚な鯖の旨味とさらっとした脂が口いっぱいに広がるのだ。並みのご飯ならば、その旨味と脂の邪魔にしかならない。つまり、鯖だけで食べるべきなのだ。
そうであるならば、何の迷いも必要ない。ただただ鯖を味わうのみである。
あっという間に空っぽになった皿をお店に返しつつ、原初、すべての生命が海にあった頃のことに思いを馳せて、私はこう言った。
「ごちそう鯖でした。」