苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

夏の魔物

夏の街には魔物が棲んでいる。しかも、深夜の人気のない路地裏に、とかではなく、白昼堂々大手を振って、闊歩している。夜は夜で、息を潜めて忍び寄り、寝ている間に襲われるということもあるので厄介ではあるのだが。 あるロシア人は魔物の姿を見たという。…

The Curry on the Edge of Forever

「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たつた四杯で夜も寝られず」という、ペリーが来航した際の世の慌てぶりを鋭く描写した狂歌がある。さして泰平でない人生でも週の初めは頭がぼんやりしがちだ。そんな頭をたった一杯で覚ますカレーがある。しとしとと雨が降る中を…

台湾彷徨その3

疲れ果てていればぐっすり眠れるだろう、という安易な予想は大きく外れた。相変わらず隣の部屋のシャワー音は大音量で聞こえ、犬は吠え、他の宿泊客の足音や話声は週末ということもあって昨晩よりも大きいくらいだった。 そして迎えた3日目の朝。通常の旅程…

台湾彷徨その2

敗北をビールで流した翌朝。目覚めは決して良いものではなかった。愛すべき四畳半的な部屋は、廊下を人を通ればその音が、隣室がシャワーを使えばその音が、まるで壁などないかのような音量で聞こえてくるのだ。さらに、どういうわけか、深夜に部屋の目の前…

台湾彷徨その1

生来出不精な私であるが、時折遠くへ旅に出たくなることがある。今回の旅もそんな発作的なものの産物であった。 発端は、改元の乱痴気騒ぎが終わり、人々が10連休というはかない夢から覚めた5月中旬にさかのぼる。連休中、ほとんど家から出ずにいた反動から…

月に行った男

たかしへ 父さんは今、月にいます。たかしは信じないかもしれないけど本当に月にいます。死んでしまったことをオブラートに包んで言ってるとかじゃないからな。父さんは生きています。来月には帰ります。 たかしも知っていると思うけれど、月には酸素があり…