苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

台湾彷徨その1

生来出不精な私であるが、時折遠くへ旅に出たくなることがある。今回の旅もそんな発作的なものの産物であった。

発端は、改元の乱痴気騒ぎが終わり、人々が10連休というはかない夢から覚めた5月中旬にさかのぼる。連休中、ほとんど家から出ずにいた反動からか、頭の中でもう1人の自分が「台湾に行きたいわん!台湾に行きたいわん!」と叫びながら、ヘンテコなダンスをしていた。いつもであれば、無視してしまうところであるが、このときはなぜか、一緒になってヘンテコなダンスをしてしまった。そして、気がつくと、台湾行きの航空券とホテルを予約していた。

それからおよそ1ヶ月半。旅行代金も支払って、行くより外ない状態であったにも関わらず、全く下調べも準備もしないままで、出発の日が近づいていた。さすがにノープランではいけないだろうとガイドブックを買ったのが、出発1週間前。そこからざっくりとしたプランを立てて、出発当日の朝に大慌てで荷造りをするという、まったくもってやる気が感じられない旅立ちであった。

中部国際空港から桃園国際空港へ。どんなにやる気のない人間であっても、飛行機は分け隔てなく運んでくれる。約2時間半のフライトで、無事に到着。入国の手続きよりも先に、スマートフォン用のプリペイドsimカードを契約。3日間通信し放題で350元。ノープランに近い旅ではインターネットに接続できる端末が命綱となる。お金を払って、simカードを入れ換えるだけで、あっという間にスマートフォンがインターネットにつながる。文明の素晴らしさを誉め称えたくなる瞬間であった。

しかし、この窓口では、旅の先行きを不安にさせる出来事もあった。日本語が通じないのである。カタコトの英語でやり取りしてなんとかしのいだものの、この先も思ったより日本語は通じないのではないか。そんな予感がよぎった瞬間であった。そしてその予感の正しいものであった。

出国手続きもぎこちない英語で済ませ、台北市内行きのMRTの切符もぎこちない英語で買い、どうにかこうにか電車を乗り継いで、滞在中の拠点となるホテルがある西門にたどり着く。飛行機の遅延等々もあって、西門に着いた時点ですでに日は沈んでいた。幸い、繁華街であったので、あちこちに街灯やらネオンやらがあって、大きな通り沿いは明るかった。しかし、ホテルがあるのは、繁華街から一本入った路地裏であった。薄暗い路地に恐る恐る入っていくと、寂れ具合がなんとも素晴らしいビルが建っていたので、思わず写真を撮る。すると、ビルの前に立っていた若者がこちらに向かって、物凄い剣幕で何かまくし立ててくる。恐らく「何撮っとんじゃコラ」というようなことを言っていたと思うのであるが、中国語は理解できないし、その若者を撮っていた訳でもないので、申し訳なく思いつつも、目を合わせないようにして、足早にその場を去る。しばらく歩いても追いかけてくる気配はなかったので、胸を撫で下ろすと、ちょうどホテルの看板が目に入った。路地裏からさらに入った場所にあったので、大丈夫だろうかと思ったが、入ってみると、内装はとてま綺麗だった。「ニーハオ」とぎこちなく挨拶すると、「あー、日本の方ね」と、日本語が返ってきた。パスポートを見せて、「日本語で」チェックインの手続きをし、部屋のキーを受け取る。部屋は2階とのことで、エレベーターで上がり、部屋に入る。


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四畳半に仕切りをつけてユニットバスを無理矢理詰め込んだような部屋だった。どうせ寝るだけの場所なので、立地を考えたら十分すぎるほどの部屋ではあった(冷房完備、テレビ付き)が、次に来ることがあったら、もう少しいい部屋に泊まろうと決意した瞬間でもあった。

何はともあれ、無事にチェックインできた訳であるが、そうすると猛烈にお腹が空いてくる。出発前に立てたラフなプランでは、初日の夜は寧夏夜市に行くことにしていたので、スマートフォンを操作して地図を確認する。地下鉄で数駅の距離であったので、カメラと財布を持って、出かける。恐らく日本にいたら、こんなときはもう面倒だからコンビニ飯で済ませてしまおう、となるところなのだが、今回は不思議と外出したくなっていた。


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地下鉄を中山駅で降り、歩いて寧夏夜市へ。道の真ん中に屋台がずらっと並んでいる様子は、さながらお祭りのよう。これが毎日続いているというのは、日本ではちょっと考えられないな、どと考えつつ、屋台を眺めて歩く。威勢よくホテルを出たものの、いざ屋台の前に来ると、何を食べようか決めきれない。ここへ来て優柔不断ぶりを遺憾なく発揮するというあまりありがたくない状況である。複数人で来ていれば、あれやこれや買ってシェアするという手もあるのだろうが、あいにくと今回は胃袋は1つしかない。散々悩んだ挙げ句、屋台ではなく、常設のお店に入ることにし、そこでも散々悩んで、牛肉麺と魯肉飯を注文した。「台湾はだいたい何を食べてもおいしい」という考えがあったので、深く考えずお店を決めたものの、このお店の料理は何となく口に合わなかった。とはいえ残すは信条に反するので、平らげて、店を出る。その後も夜市をうろうろとしてみたが、満腹感と「またハズレを引くかもしれない」という恐怖感が邪魔をして、結局お店を冷やかすだけで、ホテルに戻ってしまった。台湾初日は、圧倒的敗北感と共に幕を閉じた。そんな夜は、ビールで流してしまうに限る。


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