苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

世界の終わりとその前衛

朝起きたら、世界が終わっていた。

そもそも目が覚めた時には、世界が終わっているなんて思ってもいなかったのだけど、テレビをつけようとしてもつかないし、冷蔵庫の電源も落ちているし、これは停電に違いないと思って、スマホでニュースでも見ようとしたら、圏外でつながらないし、蛇口をひねっても水が出ないので、外に出てみたら、車が1台も走ってないし、人も歩いてないし、人がいる気配すらしなくて、どうやら何らかの理由で世界から人が全て消えてしまったらしいと結論付けた。

 

マンションの窓から誰もいない街をしばらく眺めてみたものの、相変わらず誰もいないし、お腹は空いてくるしで、とりあえず冷蔵庫にあった昨日の夕飯の残りを食べた。温めようにも電気が止まっていて電子レンジが使えないので、冷たい、というか生ぬるいままで食べたのだけれど、不意に何とも言えない寂しさに襲われて、気付いたら泣いていた。

 

世界にはもう誰もいないのかもしれない。そうなったら、このままひとりで寂しく死んでいくしかないのかと思うと、涙が止まらない。そんな時に、ふと入り口に「世界が終わっても心配するな!この店は開いている!」と書かれた雑貨屋があったことを思い出した。思い出したのだけど、その雑貨屋はずいぶん前に閉店してしまったのだった。世界の終わりよりも先にお店の終わりが来てしまうなんて、世知辛い世の中だ。そんな世の中も今日終わってしまったのだけれど。

ひょっとしたら、世界の終わりに、あの店がまた開いているかもしれない。どうせ時間は掃いて捨てるほどあるんだし、あの店に行ってみよう。

リュックサックに、冷蔵庫の中の食べられそうなものと、ありったけの飲み物を詰め込んで、外に出る。やっぱり誰もいないし、車も走っていない。あの店までここから30分くらい。そこまで歩いたら、誰かいるかもしれない。

誰もいない道を歩いてみたけれど、結局誰もいなかった。でも猫はいて、人がいようがいまいが関係ないね、みたいな顔をして昼寝していた。

 

30分かけて、あの店の前まで来た。何故かシャッターが半分だけ開いていて、中からソニー・ロリンズソニームーン・フォー・トゥーが聴こえてくる。中に人がいるかも!

シャッターをくぐって中に入ると、青い髪のパンクな雰囲気のお姉さんがいて、本にビニールの帯をつけていた。お姉さんはこちらに気付いたみたいで、ぎろりと鋭い眼差しを向けて、

「まだ準備中なんだけど。世界が終わってからまた出直して。」

と素っ気なく言った。急にそんなことを言われても何がなんだかわからなくて、ぼんやり立っていたら、お姉さんがホウキを持って殴りかかってきたので、ほうほうの体で店の外に出た。

でも、1つわかったのは、世界は終わりかけているけど、まだ終わってないということ。それがわかってどうなるでもないのだけれど、あれこれ原因を調べて、終わるのを止めるよりも、このまま終わって、お店が開くのを待っているほうが楽そうだ。あとどのくらいかかるかわからないけれど、待ち遠しい世界の終わりを、パンでも焼きながらゆっくり待つことにしよう。そしたらあの店に行って、役に立つような立たないようながらくたを買って、死ぬまでの暇潰しをしよう。

早く世界が終わればいいのに。