苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

かぼちゃを食べる日

ハロウィンといえば、かぼちゃのランタンですが、かぼちゃはアメリカ大陸原産の植物で、ヨーロッパにはありませんでした。もともとはカブなどがランタンの材料として使われていましたが、大航海時代アメリカ大陸の「発見」以降、ヨーロッパにもかぼちゃが持ち込まれ、皮の硬さなどがランタンの材料として適していることから、ハロウィンのジャックオーランタンに使われるようになったと言われています。

そんなかぼちゃが日本に入ってきたのは、16世紀後半から17世紀前半と言われており、イエズス会の宣教師が持ち込んだとされています。

宣教師たちの目的は、キリスト教の布教ですが、捗々しい成果を挙げられていませんでした。これは日本にもともとあったアニミズム的信仰や仏教の考え方が、キリスト教の考え方と相容れなかったということが原因の一つです。

折しもヨーロッパでは宗教改革の風が吹き荒れており、カトリックプロテスタントが勢力拡大を競いあっていました。そんな中で、非キリスト教国への布教は、どちらの勢力にとっても重要な問題でした。

日本にやってきたイエズス会カトリック勢力ですが、布教に失敗したとなると、やることは一つ、相手側の勢力拡大の阻止です。プロテスタントの勢力に、「この地にはカトリックが根付いている」と思わせることができれば、日本への布教を断念させることができるかもしれない。そう考えたイエズス会の宣教師は、カトリックでは受け入れられているが、プロテスタントでは受け入れられていないハロウィンの習慣を日本に持ち込むことにしました。

ハロウィンはもともとはケルト人の収穫祭が基となっています。キリスト教を受け入れなかった日本人ではありますが、異国のお祭り、特に収穫祭となると、農耕民族の血が騒ぐのを抑えきれなかったようで、徐々に受け入れられていくこととなります。

しかしながら、受け入れられるにあたって、一つの行き違いが起こります。

イエズス会の宣教師は「今日(10月最後の日)、ヨーロッパではハロウィンという収穫祭をする日で、このかぼちゃという野菜をランタンにする」と伝え、それまで日本人が見たこともなかったかぼちゃをランタンにして、くり抜いた中身を使った料理を人々に振る舞いました。キリスト教世界では、日没から1日が始まります。これに対し、日本では、日の出から1日が始まります。つまり、宣教師は10月最後の日であると思っていましたが、日本人にとっては、11月最初の日だったのです。そして、さらに困ったことに、この行き違いが起こった年は、偶然にも朔旦冬至(11月1日が冬至になること。旧暦で冬至は11月になります。)だったため、日本の人々は、「南蛮人冬至の日にかぼちゃなるものを食べる祭りをするらしい」と理解することになりました。(ランタンの部分は食欲に負けて失われてしまったそうです。)そして、人々の間にこの風習が広まるにつれ、もともとヨーロッパのハロウィンという祭りであったという部分は欠落し、「冬至にかぼちゃを食べる」という部分だけが残り、これが現代まで伝わったとされています。

今でも、イエズス会の影響の色濃かった地域では、冬至のかぼちゃを食べる際に、Trick or Treatが転訛したと思われる「樋(とい)に杭打つ」という言葉を唱える風習が残っているそうです。