苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

カロリーに寄す


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空腹に耐えかねて扉をくぐると、そこはカロリーの楽園だった。
しかし、本当に楽園なのか。そこかしこに餓えたサラリーマンがひしめきあっている。その様子はさながら地獄のようだ。楽園とは地獄なのか。
答えは否である。地獄に救いはないが、この店には救いがある。
空腹を抱えた我々をまず出迎えるのは、店中にしみついた油のにおいだ。これだけで、店の繁盛ぶりが伺える。そして、その店内を歴戦の猛者と言って差し支えない店員さん達が駆け回る。
席に案内されるとすぐにオーダーを決めるよう促される。あんかけスパゲッティがメインのお店ではあるが、何よりも日替りランチのボリューム感がこの店の魅力だ。私は迷うことなく日替りランチをオーダーする。
ほどなくして、注文した品が運ばれてくる。ワンプレートに、あんかけスパゲッティ、肉天、コロッケが並ぶ、カロリーの暴力と言って差し支えないのが、この店のランチだ。そしてこのプレートとは別に、ライスと赤だしも付く。炭水化物の重ね食べ。これこそ、カロリーを求めていた我々に与えられた救いである。
まずは、肉天を食べる。豚肉を天ぷらにしただけかと思いきや、生姜と醤油でしっかり味がついている。そのまま豚の生姜焼きとして出してもいいのではないかと思うのだが、あえて揚げることでカロリーをアップさせておきましたという、店の心遣いを感じる逸品だ。
次にコロッケ。食感がなくなるまで潰すのは邪道だと言わんばかりに、じゃがいもの塊がごろごろと入っている。あえてそうすることで、やや小ぶりのコロッケではあるものの、食べた時の満足感は普通のコロッケ以上となる。カロリーだけでなく、満腹感を得られるかどうかも、餓えた我々にとっては重要である。
最後に、あんかけスパゲッティ。「太め」などという生易しい表現ではなく、極太の麺が、油で艶かしく光っているところに、この店自慢のあんかけソースをかけたものだ。具は入っていないが、だからこそあんかけソースの実力が問われる。胡椒でビリビリと辛いのがあんかけソースのスタンダードであるが、この店のソースは胡椒の辛味はなく、トマトの旨味をストレートに感じる、聖母のような滋味に満ちたものだ。このソースを肉天やコロッケと絡めて食べると、たまらない。まさに天にも昇るような味わいとなる。
あっという間に皿を空にして、代わりにお腹を満たして店を出る。満腹感も、満足感もある。だが、一度カロリーの味を知ってしまった私は、またいつかこの場所に戻ってくるだろう。決して抜け出すことができない深みにはまりこんでしまったようなこの感覚。ああ、やはりここは地獄であった。