苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

It's not half.

ハンバーガーがあるなら、完全体の全バーガーもあるはずだから、探しに行ってくるよ。」

そう言って父が出ていったのは、もう20年も前のことだ。

当時小学生になったばかりだった私は「ゲームに出てくる冒険者みたいで格好いい!」と思い、いつか父が全バーガーなるものを手に帰ってくると信じていた。

しかし、何年たっても父は帰ってこなかった。そもそもハンバーガーの「ハン」は「半」ではないと気付いたのは、中学生の頃だったろうか。その頃から薄々、父が出ていったのは、全バーガーなるものを探しに行ったのではなく、いつまでも定職につきたがらない父に愛想を尽かせた母が、父に離婚を切り出したからであることには気付いていた。

しかし、心のどこかでは、父は本当に全バーガーを探しに行ったのだと信じたい自分もいた。そんな自分はいつしかいなくなって、私も父が「全バーガー」を探しに出ていった歳に近付いていた。

父のことを不意に思い出したのは、新卒の採用面接をしていて、

「御社は一部上場されているそうですが、全部上場するのはいつごろでしょうか。」

という頓珍漢な質問を受けたからだった。思わずため息が出たが、受けた質問にはきちんと答えるべきだと思い、丁寧に「一部」について説明をした。

面接を終えると、後輩が先ほど学生がしたの妙な質問の意図について説明してくれた。曰く、最近、就活生の間では、あのような要領を得ない質問をわざとして、面接官の対応を見て評価するのが流行っているそうで、今後も妙な質問が出るかもしれないので、丁寧に対応してほしいとのことだった。

昨今売り手市場が続いてはいるが、学生の側がカマをかけるようなことをするようになるとは。この先のことを考えて少しげっそりして昼食を取りに出かけた。

気分転換に、普段行かない方に行ってみると、「完璧なハンバーガーあります」と書かれた看板をかけた店があった。父ではないが、「完璧なハンバーガー」がどんなものか興味があったので、店に入ることにした。

「いらっしゃいませ!」

声の主を見て、驚いた。なんと父だったのだ。父は本当に「全バーガー」を探しにいって、見つけていたのだ!

父は私に気付くとこう言った。

「父さんな、とうとう気付いたんだよ。全バーガーは足し算じゃなくて、引き算で完成するってことに。食べてくれたらこの意味がわかると思う。」

私は迷うことなく「全バーガー」を注文した。父が探し当てた「全バーガー」とはどんなものなのか、完全体だからさぞかし素晴らしいものだろうと期待を胸に、料理が運ばれてくるのを待った。

しばらくすると熱々の鉄板に載せられたそれは運ばれてきた。

 

「父さん、これはハンバーグだよ。」

私は頭を抱えた。