苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

外国での問答

先日、アフリカ南部のとある国に行った。


特に用があった訳でもないが、暇をもてあまして沢木耕太郎の『深夜特急』を読んでいたところ、旅に出たい欲求がふつふつと湧いてきた。
沢木を読んだからアジアに行くでは芸がない。
そこで、行く先に選んだのはアフリカである。
というのも、学部生時代に、とても古めかしい名前の准教授に「アフリカはいいですよ。鶏肉とかも日本で食べるのとは全然違って、いかにも肉、という感じでおいしいですし。」というようなことを言われたのをふと思い出したのだ。
鶏肉への欲求が私をアフリカまで運んだのである。
鶏肉への欲求は、儚い。
2、3日もすれば潰えてしまう類のものである。
そこで私は即座にアフリカ行きの航空券を手配した。
聞いたこともないような国であったが、とにかくアフリカへ行きたかった私には、何のためらいもなかった。
その国には、九州のおよそ5分の4ほどの大きさの湖があり、その南部には国立公園がある。
とりあえずの目的を、鶏肉とその国立公園に定めた私は、荷造りをし、翌日、飛行機でアフリカへと飛び立った。
飛行機に乗って十数時間、機内で何度も何度も同じ映画を見て、飽き飽きしていると、その国に到着した。
初めてのアフリカ。
着くなり、アフリカへ来た目標の1つである、鶏肉を食べることにした。
この国では、トウモロコシの粉を練って作る「シマ」と言うものが主食であるらしい。
とりあえずその「シマ」と鶏肉を食べるべく、荷物を抱えたまま街に繰り出そうとした。
市街に向かうべくタクシーを探していると、困ったことが起こった。
猛烈におならがしたくなってきたのである。
見ず知らずの土地であるとは言え、空港のど真ん中でおならをするわけにはいくまい、と我慢しようとした。
が、その次の瞬間「ぷひー」と間の抜けた音とともに、おならが出てしまった。
恥ずかしくなって周りを見渡すと、道行く人が皆足を止め、こちらをみていた。
いくら間抜けな音であったとは言え、そんなにもじろじろとこちらをみるものではないだろうと思っていると、人混みをかき分けて1人の男が近づいてきた。
その男は私が旅行者であると気付くと英語でこう言った。
「私はおならポリスだ。この国ではおならをすることが禁止されている。あなたは今おならをしましたね?」
おならが禁止されている?
そんな馬鹿げたことがあるだろうか。
この男は旅行者である私から罰金と称して金品をだまし取ろうとしているのだろう。
その手は食わない。
「私は確かに、おならをした。ぷひーというおならをした。だからなんだというのだ。」
毅然とした態度で言い返すと、おならポリスと名乗るその男も言い返す。
「おならをしたんですね。それでは少し署まで来てください。罰金を支払っていただきますので。」
やはりそうきたか。
着いて早々騙されてたまるか、と私はその男を無視してタクシーを探すことにした。
すると、その男は私を後ろから羽交い締めにした。
私が抵抗するとその男と同じ服を着た男がぞろぞろと私のもとへとやってきた。
どうやら彼らは本当におならポリスであるらしい。
私は観念して彼らに従うことにした。
事務所に連れて行かれると、先ほどの男たちの上司とおぼしき男がやってきて言った。
「あなたはおならをしたばかりでなく、抵抗して私の部下に軽傷ではあるがけがを負わせた。おならをした罪と公務執行妨害の罪で、あなたには国外退去していただくことになる。」
なんと言うことだろうか。
私はついさっきアフリカに来たばかりである。
国外退去だって?
冗談じゃない。
「その決定は覆らないのですか?」
私は食い下がる。
「覆るも何も、法律で決められていることだ。君は確かにおならをした。そして私の部下にけがをさせた。だから国外に退去してもらう。」
どうやらもうどうしようもないらしい。
さらに食い下がっていると、どこからかおならポリスの1人がやってきて私に、ガスを噴射した。
それはおならの様なにおいで、私は気を失ってしまった。
気がつくと私は日本行きの飛行機に乗せられていた。
さよならアフリカ。
こうして私の鶏肉とアフリカへの欲求はおならの様に儚く消えたのである。