苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

The Doomsday Curry

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世間の狂騒に、杜甫でなくても「国破れて山河在り」と嘆きたくなる日々。杜甫ほどの才があれば、あのような素晴らしい詩が出来上がるのだが、才を持たない人間はただただ溜め息を漏らすしかない。そして困ったことに、溜め息ばかりついていると、妙にお腹が減る。減った腹は何で満せばよいのか。徒に歩き回っていると、カレー屋の看板が目に入った。カレーの外あるまい。
入ったカレー屋は、南インド系のカレーのお店で、南インド系のカレーといえばミールスである。ワンプレートのカレー定食ともいうべきミールス。存在は知っていたものの、これまで出会うことがなかったので、メニューをみて、思わずにやけながら、店名を冠した「エリックミールス」を注文する。
水に口をつけて一息つくと、すぐにプレートが運ばれてくる。小さな器に盛られたチキンカレー、ココナッツキーマカレー、サンバル、ラッサム、副菜(黒豆とかぼちゃのココナッツ煮、チキンティッカ)。そしてイエローが鮮やかなジャポニカ米のターメリックライスと、バスマティというインディカ米。一皿にこれでもかと詰め込んだ様は、まるで満員電車である。カレーのラッシュアワーだ。
まずはそれぞれ、ひと口ずつ食べる。チキンカレーはピリリと辛いが、辛すぎるということはなく食欲をそそる。キーマカレーはまろやかで穏やかな味わい。さながら全てを貫く矛と、全てを防ぐ盾のようである。矛で盾を突いたらどうなるか。楚の商人は答えられなかったが、カレーにおいて、答えは単純明快だ。2つのカレーを混ぜたらどうなるか。おいしくなるのである。
そして米であるが、カレーライスといえばジャポニカ米がスタンダードだが、インディカ米のサラサラした感じも、油分の少ないカレーとマッチする。1993年の米騒動の時は、インディカ米がまずいまずいと言われていたが、インターネットでいくらでもレシピが調べられる現代においては、仮にインディカ米しかなくなってしまっても、おいしく食べることができるだろう。その場合、各地が漏れなくカレーの香りに包まれることになるだろうが。
カレーを混ぜたり、そのまま食べたりしていると、あっという間に皿はからっぽになる。お腹が満たされると、気持ちも幾分満たされて、再び狂騒の日々に戻る気力もほんの少し湧く。寒風吹きすさぶ街へ歩み出ると、先日かなり思い切って散髪した頭が寒い。この長さでは簪を挿すこともできないだろう。