苦悩の大きさだけは文豪並み

なけなしの文才の無駄遣い。

The Only Meat Thing to Do


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カレーに入れるのは牛肉か、豚肉か。この問題については議論が尽きないが、概ね関ヶ原を境に西が牛肉勢力圏、東が豚肉勢力圏とすることができるそうだ。仮に牛肉か豚肉かどちらかしか使ってはいけないというルールを作った日には、「まっぺんやったろみゃあか関ヶ原」と息巻く人々があふれることになるだろう。さらに言えば、鶏肉派という第三極もおり、戦いはより混迷を深めることになるだろう。
このとても深い根をもつ問題をどう解決すべきか。そんな悩みを抱えてくぐった扉の先に待っていたのは、ビーフカレーだった。
暴力的なまでにスパイスが効いたチキンカレーを出す店のビーフカレーとはいかなるものか。期待しながら、スプーンを口に運ぶ。待っていたのは、肩透かしだった。チキンカレーほどの暴力性はなかったのだ。どちらかと言えば家のカレーに近い。ただし、家のカレーを2段階くらいアップデートした完成度で、安心感と刺激が絶妙なバランスで同居している。このカレーならば、スパイスが苦手な人でも食べられそうだ。そしてこのカレーをきっかけにスパイスの刺激という底無し沼に引きずり込むことさえできるだろう。
しかし、完璧に作り上げられたバランスは時に退屈をもたらす。それを打ち壊すのが、トッピングのミニキーマだ。ビリビリとした辛さがビーフカレーを一気に刺激的にする。その刺激が週の始まりでぼんやりした頭を覚醒させる。
すっかり空になった皿を前にして、覚醒した頭が、扉をくぐる前に抱えていた問題に答えを導き出す。牛肉だろうが、豚肉だろうが、鶏肉だろうが、そんなものは些末な問題である。カレーがおいしければそれでいいのだ。
おいしいカレーを作ること。それが関ヶ原の合戦を引き起こしかねない深い深い問題を解決するたったひとつの冴えたやりかたである。